死に様を見せる


立派に端然として死ぬのは最高です。
それは、人間にしかできない勇気のある行動であり、生き残って、未来に死を迎える人々に勇気を与えてくれます。
それにまた、当人にとっても、立派に死のうということが、かえって恐怖や苦しみから、自らを救う力にもなっているかもしれません。
しかし、死の恐怖を受けて、死にたくない、死ぬのは怖い、と泣き喚くのも、それはそれなりにいいのです。
人間は子供たちの世代に、絶望も教えなければなりません。
明るい希望ばかり伝えていこうとするのは片手落ちだからです。


一生、社会のため、妻子のために、立派に働いてきた人が、その報酬としてはまったく合わないような苦しい死をとげなければならなかったら、あるいは学者が、頭がおかしくなって、この人が、と思うような奇矯な行動をとったりしたら、惨憺たる人生の終末でありますが、それもまた、一つの生き方には違いありません。
要するに、どんな死に方でもいいのです。
一生懸命に死ぬことです。
それを後に残る者たちに見せてやることが、老人に残された唯一の、そして、誰にでもできる最後の仕事なのです。

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